琉球民謡の発声に関する新聞記事

吟(人の声)は、発生の場所、感情の表現、吟勢(吟の発する勢い)でそれぞれ分けられている。

なお吟は声帯の振動によるものなので、発声する場所そのものは常に同じなのだが、ここでいう発声の場所は、発声の時に「共鳴する場所」を指している。

また吟勢は、琉球音楽の特色のひとつある。

 

(発声の場所)

腹部に共鳴し、腹から出るように感じる声を、「地声」または「腹声」 胸部に共鳴する声を、「胸声」 頭部に共鳴する声を、「上声」または「裏声」

※琉球音楽では、必ず胸声だけ使い、「地声」や「裏声」は使わない。

特に「裏声」は、絶対に使ってはいけないとされている。

 

ある師匠は底吟といい、琉球音楽にも「地声(腹声)」を使うと説いていたが、その師匠が実際に演奏する底吟というものは、低音の「胸声」であって、謡曲などで使用されている、「腹声」ではないように思えた。

しかも、どの師匠家も、「地声(腹声)」や「裏声」で演奏する所は、見たことがない。

 

(感情の表現)

喜悦の情を表わす「喜声」 悲哀の情を表わす「悲声」 特別な情を表わさない「常声」

師匠家は、「福らしく」という言葉で、「喜声」の意味を表し、「慨味かけて」という語で、「悲声」を表すことがある。

『仲間節』、『散山節』は「悲声」を、『カギヤデ風』、『コテイ節』、『作田節』は、「喜声」を用いて歌うのである。

 

西洋の音楽にはこれ以外に、「勇声」というものがあるらしいが、琉球音楽には「勇声」を用いるような音曲はない。

おそらくこれは、「軍歌」のような歌曲は、沖縄の音楽には無いためであろう。

 

(吟勢)

呼気吸気共に、緩やかに発声する「和吟(ワギン)」。

代表的なものには、『仲間節』、『仲村渠節』、『伊野波節』、『干瀬節』がある。

 

呼気吸気共に、急速に勢いよく発声する「強吟(ツユギン)」。

代表的なものは、『仲風述懐』がある。

 

声の尖端で発声する、「半吟(ナカバギン)」。

代表的なものには、『首里節』、『暁節』、『瓦屋節』がある。

 

楽人であるなら、これら演奏の心得、即ち「シーダマシ」を、よく味わい置くことは大切である。

例えば、『仲風述懐』は、吟をバッバッと爆発的に出すのだが、曲情を出そうと「和吟」で歌うと、返って悲恋決死の趣きが出てこない。

また、『首里節』や『暁節』を、声一杯の銅羅声を張り上げて歌うと、節情を殺してしまう。

 

また、現代の楽人は、自分の声色がどの音曲に適しているか、またどの三味線に調和するかということに、考慮が足りないと思う。

『伊野波節』に適する吟で、『散山節』や『述懐節』を歌って、「ミーハイナキ(空泣き)」したり、「真壁」に相応しい喉の持主が、「与那城」を所持して、得々としているなど、少しも楽人らしい用心深さが無い。

 

三味線の歩当てに、細心の注意を払う楽人は多いが、自分の声帯の歩当てに、関心を持つ人は少ない。

ましてや、自分の吟が「肉声」か「骨声」かを意識して、十八番(得意な歌)を選ぶ楽人は殆ど皆無と言っていい。

【比嘉掬水】